再録・葉祥栄論その4---建築のリアリティへのたゆみない探求にたいして

*某賞にかんしての推薦書(2009)として書いた。 葉祥栄は福岡を基盤としつつも、つねに建築への普遍的なアプローチをつづけ、そのことで全国的に認知され、そして国際的に高い評価を得ている創造的な建築家である。 彼は慶応義塾大学経済学部を卒業ののち、…

再録・葉祥栄論その3---SD誌1997年1月号掲載「葉祥栄にとってのリアリティ」

かつて葉は、自分の建築にふれながら、もはや非建築であることにしか可能性はないといった意味のことを語ったことがあった。たしかに彼の建築は、一見オーソドックスな合理主義的建築によう見えて、なにか独特の雰囲気を醸し出している。例えばガラスという…

再録・葉祥栄論その2---堀川病院サンダイヤルについて

*この小論は毎日新聞西日本版1997年2月14日掲載、見出しは「建築のバリアフリー ---知覚への還元と技術・素材の把握こそ」 「バリアフリー」が昨今、よく言及される。一般的な意味では、それは公共性のある建築や環境において、身障者にとって邪魔になる段…

再録・葉祥栄論その1---内野高齢者生活福祉センターなどについて

*この小論は毎日新聞西日本版1995年7月28日掲載、見出しは「葉祥栄---建築の可能性 屋根と大地の縄文的な造形」 建築の本質は柱か壁かという議論がかつてヨーロッパにはあった。18 世紀のいわゆる啓蒙主義の時代である。荷重を支える柱と、間取りすなわち機…

ディオゴ・セイシャス・ロペス『メランコリーと建築』を読んだ感想

監修の片桐悠自さんから『メランコリーと建築』を送っていただきました(訳は服部さおりさん、佐伯達也さん)。ありがとうございます。 ポルトガルの建築家であったディオゴ・セイシャス・ロペス(1972-2016)によるアルド・ロッシ論である。 すでに20世紀の…

藤本壮介『地球の景色』を読んだ感想

藤本壮介さんから『地球の景色』をいただいた。ありがとうございます。ワクチン熱もおさまったので、読書感想文を書いてみる。 この書は2015年から8年間GA Japan誌に連載されたエッセイをまとめたものらしい。世界出張記ともいえる。力をこめすぎない、リラ…

ロス・バーンズ著松原康介他訳『ダマスクス 都市の物語』(2023)を読んだ感想

(1)まえがき 本書を訳者の松原康介さんからいただきました。ありがとうございます。 聖書にすでに言及されている都市ダマスクスの数千年の歴史を、内戦状態の今日にいたるまで述べている文献である。多角的な視点から描いている。戦争と平和、政治と国際…

青井哲人『ヨコとタテの建築論』(2023)を読んだ感想

青井さんに同書をいただきました。遅くなりましたがありがとうございます。 この書は建築論なのだが、それそのものというより、建築論はいかに成立するかという本である。いわばメタ建築論である。そういう点ではぼくの方法論に近い。まずヨコ/タテを象徴的…

ユハニ・パッラスマー『建築と触覚---空間と五感をめぐる哲学』草思社、2022

標記文献を草思社様からいただいた。ありがとうございます。 スティーヴン・ホールによる前書きによると、a+u誌の特集「知覚の問題---建築の現象学」(1994年7月)などがたたき台になっているらしい。もちろんこの特集は知っている。本書にしばしば引用され…

豊川斎赫『国立代々木競技場と丹下健三』TOTO建築叢書、2021

豊川さんからご恵贈にあずかりました。ありがとうございます。 丹下健三研究の第一人者豊川さんが書いているのだから、安定感抜群、内容充実、川口研所蔵の丹下資料等の新鮮な素材の提供など、コンサイスな本でありながら多角的で読み応えがある。ただ「あと…

松井茂『虚像培養芸術論---アートとテレビジョンの想像力』フィルムアート社, 2021

松井茂さんからフィルムアート社経由でご恵贈にあずかりました。ありがとうございます。 テレビが登場した1953年以降の、とりわけ1960年代以降のメディア(テレビ)、アート、建築を横断的に論じている。 具体的には第一部「虚像培養芸術論」はどちらかとい…

日埜直彦『日本近現代建築の歴史』講談社2021

日埜さんからご恵贈にあずかりました。ありがとうございます。 たいへんな力作であり大作である。刺激的でもある。読みつつさまざまなことを連想し、とりとめもなくなってしまう。 私事で恐縮だが、助手であったころ、教授に生意気なことをいってしまった。…

辻泰岳『純色の戦後----芸術運動と展示空間の歴史』2021

水声社よりご恵贈にあずかりました。ありがとうございます。 最近、西洋では展覧会そのものをテーマとする文献が散見されるにようになったが、本書はそのテーマを日本の文脈で展開するものである。たいへん斬新であり、多種多様な資料を横断的に読み、ときに…

市川紘司『天安門広場』2020の感想文

市川紘司さんから送られてきました。ありがとうございます。 たいへん充実した力作である。膨大な史料、文献、既往研究を駆使した論考である。すべてのディテールが読みごたえがあり、面白い。ぼくは現在の天安門広場が整備された1950年代に生まれたし、1個…

テッサロニキの回想と憂愁、あるいは研究者意識の世界性とか

ギリシアの都市テッサロニキは、たぶん1984年訪問。なんと36年もまえの話になってしまった。 とりたてて興味があったのではない。パリに留学したとき、フランス国内はいつでも見学できるから、とりあえず、優雅に鉄道で最遠のイスタンブールでも行こうと考え…

原論的な設計教育(5)パラダイムチェンジは可能か

自己レビューはこれが最終回です。 ---●再録(『建築雑誌』2019年7月号より):【5】パラダイムチェンジは可能か 設計教育がいかにパラダイムチェンジされてきたかはアメリカをみればよい。フランス的ボザール教育、モダン建築の機能主義教育、反近代的なバ…

『建築におけるオリジナルの価値』(2020)の読書感想

ハードコアな論考集である。なおこれは日本建築学会[若手奨励]特別研究委員会の報告書であるが、学会員のよしみで送っていただきました。ありがとうございます。 ぼくが学部3年生であったとき、故稲垣栄三が担当する授業「日本建築史」のテーマは、法隆寺…

原論的な設計教育(4)基底的なもの

「建築雑誌」2019年7月号の愚論がたまたま退職記念論文になってしまったものだから、自注をつけつつ反省している自己宿題。●再録: すべては演算に還元される。そこでなにが基底的か。結論先取りすれば19世紀は素材(ゼンパー的唯物論)が、20世紀は人間(生…

難波和彦さんの反論を読んでの感想

「神宮前日記」(8月8日と9日)にぼくの読書感想への反論が書かれているというので、読んでみた。 再感想としては、難波さんの受け止め方がなにか変な気がした。 (1)「『本書の要約を試みるよりも、本書にはなにが書かれていないかを探ったほうが、その特…

原論的な設計教育(3)設計に原論はあるか

この連番を忘れていたが、思い出して復活。たんに備忘録だから読まなくていいです。もし読んでしまったら笑ってください。●再録: それにしても、そもそも設計とはなんだろう。かつて情報化がいわれたころ、私たちは情報の海に漂うのであろうとされた。昨今…

難波和彦『新・住宅論』放送大学叢書(2020)の読書感想文

難波さんより送っていただきました。ありがとうございます。 一読して「近代住宅の残像」という言葉が心中に浮上してきた。 本書では、いわゆる建築の四層構造と戦後日本とでマトリクスをつくり、そこに多くの項目を適材適所にプロットして、わかりやすい構…

書評・磯崎新『瓦礫の未来』と預言者論

『建築技術』四月号に掲載された書評、再録します。自注も。そして「磯崎さんは預言者だ!」論。 ---- 始まりも終わりもないプロセスの自律『瓦礫の未来』磯崎新:著土居義岳(九州大学名誉教授) 磯崎新さんが青土社『現代思想』の2016年5月号から2019年3…

サン=ジル修道院(南フランス)と西洋建築の正史形成について

(1)サン=ジル修道院教会堂(南フランス)の謎 学生時代、建築史を志したとき、まずはペヴスナー『ヨーロッパ建築序説』を読みました。そこで2章「ロマネスク様式」で紹介されているサン=ジルの写真をそこそこ気にいりました。扱いも立派。そこで本文の…

長谷川香『近代天皇制と東京』読書感想

長谷川香さんから『近代天皇制と東京』(東大出版会)を送っていただいた。ありがとうございます。 儀礼空間からみた都市・空間史という副題にあるように、帝都東京における天皇関係の儀礼を、祝賀、大喪、軍事に分類し、それを空間軸と時間軸に分類してプロ…

50年たち三島由紀夫の虚無について

ひさしぶりに都心に出向いた。世情ゆえに電車はすいており、着座しての読書時間を得た。大澤真幸『三島由紀夫 ふたつの謎』2018、kindle版を読んだ。 かなり入念に論理構築された書である。組み立てもすぎると躍動感がかえってなくなるが、本書は最後まで飽…

原論的な設計教育(2)大学改革のなかで

【妄想につき注意!】建築学科は大学改革失敗つづきの本省から離れて、国交省の庇護の下にはいったら?●再録2(『建築雑誌』2019年7月号「原論的な設計教育を私は目指してきた」から): 教え子である百枝優、佐々木翔、佐々木慧らは学生のころから実務家の…

原論的な設計教育(1) 設計教育についての個人的な経験-

『建築雑誌』(2019年7月号)に「原論的な設計教育を私は目指してきた」を書いた。6月末に大学を退職したので、すごいタイミングで論文が掲載されたものである。読み返してもると、スピード感があってわれながらよく書けているとも思える。四半世紀のサマリ…

阿部成樹『アンリ・フォシヨンと未完の美術史』2019

読書感想文です。アンリ・フォシオンは建築史学においても『西洋の芸術(1.ロマネスク、2.ゴシック)』などの著作を、翻訳をとおしてよく知られていた。かなりまえ教会建築を勉強してみようと思い、文献をあてどもなく読み進めていたときであった。戦前か…

陣内秀信・高村雅彦『建築史への挑戦』鹿島出版会2019

著者さまたちから春先にいただいたのだが(ありがとうございました)、落ち着かない日々が続いてつい読みそびれていた。さらに大学退職にはじまり福岡から横浜への転居という雑務がつづいて読書どころではなかった。ただ段ボールを荷解きしながら、つい逃避…

江本弘『歴史の建設』東京大学出版会2019

ずいぶんまえにUTPの神部さんからいただいた(ありがとうございます)が、感想をつい書きそびれていた。 若手建築史家の意欲作である。ゴシックリバイバルの巨人ラスキンがアメリカにいかに受容され、批判され、再評価されてきたかを軸にして、アメリカ自身…