2020-01-01から1年間の記事一覧

市川紘司『天安門広場』2020の感想文

市川紘司さんから送られてきました。ありがとうございます。 たいへん充実した力作である。膨大な史料、文献、既往研究を駆使した論考である。すべてのディテールが読みごたえがあり、面白い。ぼくは現在の天安門広場が整備された1950年代に生まれたし、1個…

テッサロニキの回想と憂愁、あるいは研究者意識の世界性とか

ギリシアの都市テッサロニキは、たぶん1984年訪問。なんと36年もまえの話になってしまった。 とりたてて興味があったのではない。パリに留学したとき、フランス国内はいつでも見学できるから、とりあえず、優雅に鉄道で最遠のイスタンブールでも行こうと考え…

原論的な設計教育(5)パラダイムチェンジは可能か

自己レビューはこれが最終回です。 ---●再録(『建築雑誌』2019年7月号より):【5】パラダイムチェンジは可能か 設計教育がいかにパラダイムチェンジされてきたかはアメリカをみればよい。フランス的ボザール教育、モダン建築の機能主義教育、反近代的なバ…

『建築におけるオリジナルの価値』(2020)の読書感想

ハードコアな論考集である。なおこれは日本建築学会[若手奨励]特別研究委員会の報告書であるが、学会員のよしみで送っていただきました。ありがとうございます。 ぼくが学部3年生であったとき、故稲垣栄三が担当する授業「日本建築史」のテーマは、法隆寺…

原論的な設計教育(4)基底的なもの

「建築雑誌」2019年7月号の愚論がたまたま退職記念論文になってしまったものだから、自注をつけつつ反省している自己宿題。●再録: すべては演算に還元される。そこでなにが基底的か。結論先取りすれば19世紀は素材(ゼンパー的唯物論)が、20世紀は人間(生…

難波和彦さんの反論を読んでの感想

「神宮前日記」(8月8日と9日)にぼくの読書感想への反論が書かれているというので、読んでみた。 再感想としては、難波さんの受け止め方がなにか変な気がした。 (1)「『本書の要約を試みるよりも、本書にはなにが書かれていないかを探ったほうが、その特…

原論的な設計教育(3)設計に原論はあるか

この連番を忘れていたが、思い出して復活。たんに備忘録だから読まなくていいです。もし読んでしまったら笑ってください。●再録: それにしても、そもそも設計とはなんだろう。かつて情報化がいわれたころ、私たちは情報の海に漂うのであろうとされた。昨今…

難波和彦『新・住宅論』放送大学叢書(2020)の読書感想文

難波さんより送っていただきました。ありがとうございます。 一読して「近代住宅の残像」という言葉が心中に浮上してきた。 本書では、いわゆる建築の四層構造と戦後日本とでマトリクスをつくり、そこに多くの項目を適材適所にプロットして、わかりやすい構…

書評・磯崎新『瓦礫の未来』と預言者論

『建築技術』四月号に掲載された書評、再録します。自注も。そして「磯崎さんは預言者だ!」論。 ---- 始まりも終わりもないプロセスの自律『瓦礫の未来』磯崎新:著土居義岳(九州大学名誉教授) 磯崎新さんが青土社『現代思想』の2016年5月号から2019年3…

サン=ジル修道院(南フランス)と西洋建築の正史形成について

(1)サン=ジル修道院教会堂(南フランス)の謎 学生時代、建築史を志したとき、まずはペヴスナー『ヨーロッパ建築序説』を読みました。そこで2章「ロマネスク様式」で紹介されているサン=ジルの写真をそこそこ気にいりました。扱いも立派。そこで本文の…

長谷川香『近代天皇制と東京』読書感想

長谷川香さんから『近代天皇制と東京』(東大出版会)を送っていただいた。ありがとうございます。 儀礼空間からみた都市・空間史という副題にあるように、帝都東京における天皇関係の儀礼を、祝賀、大喪、軍事に分類し、それを空間軸と時間軸に分類してプロ…

50年たち三島由紀夫の虚無について

ひさしぶりに都心に出向いた。世情ゆえに電車はすいており、着座しての読書時間を得た。大澤真幸『三島由紀夫 ふたつの謎』2018、kindle版を読んだ。 かなり入念に論理構築された書である。組み立てもすぎると躍動感がかえってなくなるが、本書は最後まで飽…

原論的な設計教育(2)大学改革のなかで

【妄想につき注意!】建築学科は大学改革失敗つづきの本省から離れて、国交省の庇護の下にはいったら?●再録2(『建築雑誌』2019年7月号「原論的な設計教育を私は目指してきた」から): 教え子である百枝優、佐々木翔、佐々木慧らは学生のころから実務家の…

原論的な設計教育(1) 設計教育についての個人的な経験-

『建築雑誌』(2019年7月号)に「原論的な設計教育を私は目指してきた」を書いた。6月末に大学を退職したので、すごいタイミングで論文が掲載されたものである。読み返してもると、スピード感があってわれながらよく書けているとも思える。四半世紀のサマリ…