歴史空間学

先週、某学会で歴史空間学なるものをすえたシンポジウムを拝聴してきた。

概念そのものが特別新しいわけではない。歴史は時間軸であり、たとえば地理学は空間軸であるが、それらの相関、たとえば歴史地図のようなものはみればわくわくするし、地政学などというものも政治が展開する時空を想定しており、そこでは時間軸と空間軸は相関している。

それもあるが、今日、歴史空間が注目されるのは、航空考古学や宇宙考古学など高度なIT技術を活用した新しい認識がもたらされ、それが一種の文理融合的であるとともに、ビッグデータが空間にプロットされたデータスケープが、時間軸にそってどう展開するかが可視化され、そこに新しい問題の発見がありうるからである。

もともと文献・史料が中心であった歴史学がそのような空間の発見をしつつある、すくなくとも西洋では格段に展開しており、日本としても遅れをとってはならじ、というようなことらしい。

建築学や都市学にとってはむしろデータスケープ的な発想はすでにあるし、なじみやすい方法論である。ぼくたちの建築や都市の論考が、そのような高度な次元で、自然科学や人文諸科学と出会うべきなのであろう。これはぼくよいうより、もっと若い世代の研究者たちの課題であるにはしても。

そしてその「空間」というのが、ひとつの層ではなく、おおくのレイヤーが積層するデータ空間であり、その4次元空間(空間的3次元と時間的1次元)のなかで、どの層とどの層がつよく相関しているか、という思考図式が根底的なものとなって、それがさまざまな学問分野のこれまでのパラダイムとも関連して、意味をもち、新しい課題設定をもたらすであろう。かつて都市地理学はそのようなことをプリミティブな次元でやっていたが、今ではそこで積層されるレイヤーが、きわめて多様で創造的なものになっているし、ますますそうなるであろう、という印象である。そういうものの延長に、都市学、アーバンスタディが構想されるであろう。しかもそれぞれの都市が、自分自身についてのアーバンスタディをもち、その枠組みのなかで建築や文化遺産などが検討されるということになろう。

そこで課題となるのが、情報が生まれる、情報を生み出すための「指標」の設定というようなことであろう。ある指標を設定すれば、10年ほどの情報収集で、有益な結果はもたらされうる。さらに「指標」を創出するにはなが必要か、などと考えれば、それは根本的な建築論であり都市論であり、・・・と還元的に考えてゆけば、情報処理と本質論とは矛盾することなく相互依存的なのではあろう。