《パリ盆地のオフィス建築》展

アルスナル館で標記のような展覧会が開催されていたので見てきた。WEB版ル・モニトゥール誌でも紹介されつつある。

東西のアンバランスゆえに、バランスに配慮するパリ都市計画の伝統を反映したわけでもないだろうが、パリにはふたつの建築博物館(ギャラリー)がある。

西にはシャイヨ宮のなかにある建築・遺産都市という建築博物館。ここはヴィオレ=ル=デュクいらい古建築保存の拠点であったが、数年前に、IFA(フランス建築協会)を編入して、中世建築中心のギャラリーと、近現代ギャラリーという2部構成の建築博物館となった。そのはざまにある古典主義は意図的に冷遇されていることはすでに書いた。ともあれフランス合理主義は、古典主義をとびこえて、中世と近現代をつないでいる。そしてここは、かつてはモニュマン=イストリク(歴史的建造物)いまはパトリモワンヌ(文化遺産)という意味で、どちらかというと国家というものを体現している。

いっぽう東にあるのがこのアルスナル館であり、ここはパリ市都市計画局のショウウインドウといった感じで、パリの都市史をグラフィカルに示すかたわらで、現在進行形のプロジェクトを展示したり、課題を述べたりする。歴史的文脈と、現代の課題をというふたつの側面をいつもバランスよく理解させるようになっていて、現代というものを歴史的に位置づけることを忘れないすぐれた展示となっている。

それはともかく今年は「オフィス建築」がテーマである。オフィス建築先進国であったアメリカの諸例を展示し、パリ大都市圏のなかでオフィスがいまのところ5200万㎡がどのように分布しているかなどのデータを示し、それが産業構造の変化の結果であること、そして現代のタイプがいかようなものかを示している。

WEBによればフランスで最初のオフィス建築展であるらしい。そういえば記憶にあるかぎり、この国の建築雑誌の特集テーマは、住宅、都市、学校、病院・・・などであってもオフィスは記憶にはない。工場はあったような気がする。

もちろん世界の趨勢などに従う必要もないし、パリにはそこ固有の時間と時代があっていいのだが、それにしてもいまさらという感じがしないでもない。製造業からサービス業へ。そのとおり。単一機能から用途の複合化へ。これもそのとおり。勤務スタイルの多様化、アメニティの向上。オーディトリアムや会議室だけでなく、飲食店、スポーツ施設、託児所。まったくそのとおり。アールインワン化、オフィスのキャンパス化。これも想像できる。新しい環境工学、エコ、ファサードのダブルスキン化。これもとくに新しくない。

結局、パリ固有の文脈から読み解くしかない。都市計画的には、ラデファンス地区はまさにオフィス街として1960年代から整備されたが、記憶によれば総床面積の70%だか80%だかが外資系で、ほとんど経済出島なのであった。だから今回の特集は、オフィスが重要な都市施設であることを再認識し、都市のなかに普遍的に存在すべきものであり、都市の発展のためにポジティヴに見直そうということである。

もうひとつ考えられるのは、パリ大都市圏は交通インフラもじつは不十分であり、また自治体間の社会的・経済的格差も大きく、きわめて不均質である。21世紀の富と雇用の源泉であるオフィス空間をなるべき均等に配置すれば、大都市圏としてバランスのとれたものになる。それが社会的安定のための礎になる、といったことはただちに想定できる。ただオフィス施設は自足的な島宇宙化して、それまでの伝統的な都市との一体感はすこしなくなるであろうが。