庄司紗矢香のコンサート

黒崎までいってきた。ヤナーチェク、ベートーベン、ドビュッシーシューベルトであった。

音楽は素人なので120%印象評だが、機械にように正確で、音色はあくまでりりしく美しく、しっかり音楽の精霊が天よりおりてきていた。2年前のツアーではほとんどベートーベンであったらしいが、今回は違う素材をすべて庄司紗矢香の音楽にしていた感がある。いままでテレビ録画でなんどか聴いたことがあるが、生で最初から最後まできくということはたいへんいいことである。アンコールも2曲披露してくれたし。

ホールがある黒崎はJR駅前のシャッター商店街があることで有名である。人工地盤の駅前広場もあるそこそこの地方中堅都市なのだが、ずっとまえから斜陽化が顕著である。学生たちも、10年以上前から卒計などでこのんでサイトとしてえらんでいた。ひとつのスジにとどまらず、あるエリア全体がごっそり空洞化している。だから気になってもいたので、わざわざそこをとおってホールに向かったのであるが、経済の地盤沈下、商構造の根本的変化に敗北していった地域の、戦後の焼け跡ののようなものである。それがなんのてらいもなく、あっけらかんと露出している、といった風情であった。

爛熟した都市の音楽ホールできくのもいいかもしれない。パリのシャンゼリゼホールで聴くマリア・ピレスや内田光子もいいであろう。しかしほとんど廃墟と化した商店街のすぐとなりの、建築家物件ではないがそこそここじゃれた音楽ホールで、しかし800人の聴衆はほとんど老人といった状況で聴く庄司紗矢香は、未来かあるいは天からの贈り物のようなものである。誇張でなく。