国立西洋美術館にて講演

8月22日、ボルドーの都市について語った。開催中の『ボルドー展---美と陶酔の都へ---』の枠組みで企画されたもので、おもに絵画をコンテンツとする内容を、建築的、都市的文脈からサポートするという依頼であったので、迷うことなく受けさせていただいた。

ル・コルビュジエの建築で講演できることは、建築人にとってはたいへん名誉なことではあった。ただなにぶんテーマが地味なので、ホールは閑散としているだろうと想像していた。ところが大学での講義よりははるかに人が多く、さすが上野と感じ入ったものであった。

18世紀の広場建設が、たんに古典主義建築の展開ということにとどまらず、徴税所や商業会議所といった基幹経済制度の整備、また地元財界人たちへの土地投機機会の提供、でもあったことを指摘した。ひとつの建設プロジェクトをみると、横断的に、さまざまな社会的勢力の相互関係がみえてくる。政策立案する政治家、資産増殖と社会的地位向上をめざす商業人、法曹を支配する地元貴族勢力、などの利害がどのように絡んでいるか、それが地域社会の構図であろう、というようなことを述べた。

さらに18世紀中盤に都市プロジェクトによって景観が一新されたことが、画家の絵心を刺激し、さまざまな都市景観画が描かれたと推測できると指摘した。ガロンヌ川に臨む町並みというのが一般的な構図で描かれている。川、空、雲による絵は、基本的には風景画である。ジャンルは風景画である。が、都市プロジェクトが契機だというのがおもしろい。さらに会場のオリジナルをみてはじめて気づくのは、ディテールである。近景に描かれた、多くの船舶、修理中の船、さまざまな機材を活用して荷揚げする様子、それらが港湾技術づくし的な、そういう意味で百科全書がさまざまな手工・工学技術の図解であることを彷彿させるような、詳細な説明図として読解できて、率直に楽しいのである。

18世紀は国際貿易都市、19世紀から20世紀は造船業などの製造業もふくむ商業・工業都市、21世紀はアラン・ジュペ市長の施策による文化・観光都市というように、きわめて明確に「生き残り戦略」を選択しつつ、活力を保ってゆく都市である。美も、陶酔も、そして工夫、野心、上昇志向も、都市のエネルギーである。