豊川斎赫『丹下健三 ディテールの思考』

豊川さんから送っていただきました。ありがとうございます。

 『ディテール』誌に掲載されたものをまとめたものであり、代々木体育館のサンスペンション構造はもちろん、東京カテドラルのHPシェル、山梨文化会館のジョイントコアなど、作品にそって特徴的な構造、構法が説明されている。

 あとがきにフランプトンの『テクトニック・カルチァー』が紹介されているように、テクトニック(結構)もまた、ゼンパーの発想を継承するとすれば、思想が含まれるし、文化でもある。

 建築なるものについての議論のなかで、技術決定論も、機能決定論も、素材決定論も、時代精神決定論も、経済決定論も、政策決定論も、あった。そのなかで技術とは、力学的安定にかかわる構造にも、室内環境調整のためのビルディング・スキンにも、かかわることに異論はない。

 しかし技術は、自己更新するがゆえに、合理的解決というみずからの論理により陳腐化し、否定されもする。ギーディオンの『機械化の文化史』のように、今の機械ワンダーランドは、近い将来に懐古主義的になる。するとやはり、19世紀の鉄建築をやはり懐古的・回顧的に回想したベンヤミンの語りが、むしろ永遠のものとなるのであろう。

 そういう気持ちで本書を読むと、豊川さんはむしろ過去の技術を、同時代的に再現し、臨場感をかもしだそうとしている。そういう点では、丹下はまだまだ過去ではないのかもしれないし、岡本太郎太陽の塔も、それを完全に過去のものとするほどには、日本建築は進んでいないのかもしれない。

 豊川さんは、日本設計勤務の経験があるので設計実務もわかり、建築史研究室にいたのだから歴史もわかり、今は都市環境を教えているようなので、建築史の枠組みをこえた、新しい語り口を展開するかもしれない。